Research Areas

不動産の非流動性がポートフォリオ運用に与える影響

 先行研究における不動産ポートフォリオ選択研究の多くが一期間モデルの拡張型であった。例えば、鈴木&高辻(2013)は,最小分散ポートフォリオでの不動産の役割を分析している。一期間平均分散モデルに一定のウィンドウ(短期3年間と中期7年間)を設定し,同ウィンドウを月次単位で移動させることにより,異なる観測期間での不動産資産配分の変動を調べた。不動産のリスク分散での役割における知見が得られたが,同手法は拡張型一期間モデルであった。Merton(1969, 1971)とSamuelson(1969)は, 投資家効用がベキ効用関数で表現でき,かつリターンがi.i.d過程に従うとき、長期投資家が近視眼的ポートフォリオを選択する場合があることを指摘している。 しかし,不動産リターンはi.i.d過程に従わないことが指摘されており(Lin & Liu, 2008),やはり簡単には一期間モデルとの整合性が上手くとれない。Cheng et al (2013)の採用手法も拡張型の一期間モデルであるが,Cheng et alはi.i.d過程に代わる仮定を適用し分析している。「保持期間の二乗とともに不動産リターンの分散が増加する」というLin & Liu (2008)が提案した仮定である。これの仮定採用によってCheng et alは長期投資家の効用を考慮した上での一期間分析モデルの適用を前進させた。一方で,適用しているものはあくまでも一期間モデルの拡張であり,これも投資家の意思決定を動的に把握するものではなかった。長期ポートフォリオの分析を行う場合には,単純な平均分散分析では簡単には対応できないことが知られており,複数期間モデルへの拡張が必要になることが多い。そこで鈴木&高辻(2015)鈴木(2016)は、動学的最適化を用いて不動産を非流動的資産として扱った複数期間ポートフォリオを開発した。これにより不動産の非流動性を考慮したポートフォリオモデル評価の手法に一定の道筋が得られたものの、未だにその改善の余地を残している。

不動産ポートフォリオの管理運用

 不動産は不均質性(heterogeneity)を持つ。経済的に似通った物件はあっても,物理的(構造・地理)に全く同一なものは存在しない。これは,不動産という資産クラスを一般化して捉えることの難しさをしめす。これは不動産投資ポートフォリオを用いた不動産市場のパッシブ運用を難しくしている。Callender et al(2007)によると,不動産指数を1%未満の誤差で再現するためには,約350物件以上の物件を不動産ポートフォリオ内に持つ必要がある。しかし,不動産の投資規模は大きく,350物件以上の不動産を保有することは経済的に困難である。Lee (2005)によると,物件数の増加に伴う運用コストを考慮すると,実際に保有すべき物件数は,学術的に示される物件数よりも少ないことも指摘されている。これらは不動産に対する期待パフォーマンスからの乖離を引き起こす要因となりうる。取引に関わるリスク・リターンは,投資家の経済的困窮状況と保有期間そして保有費用により異なることも報告しており,投資家固有の状況に応じた理解も必要となる(Lin & Liu, 2008; Cheng et al, 2008)。 このように不動産ポートフォリオの管理は不動産の特性を理解した上での運用が求められるものであり、さらなる研究余地を残している。

不動産鑑定評価の正確性と投資判断への影響

 鑑定評価の精度は売買の意思決定とその結果に対して影響を持つ。投資家が売却(または購入)の意思決定を行う際,鑑定評価に頼ることが多い。これは,①不動産が非流動的であるため価格データが得られづらいこと,そして②不均質性により,物理的に同じ物件が二つと存在しないため,プロキシーを採用する必要があるためである。鑑定評価は,不動産価格の専門家である鑑定士の意見であり,市場価格のプロキシーである。鑑定評価は,その有用性が広く様々な場面で持ちいれられている一方で,正確性については多くの問題が議論されてきた。鑑定評価の代表的な問題として平滑化と時間差があり,これは市場で実際におこっている変動を上手く追跡することができていないという特性である。例えばClayton et al (2001)はU.S.の個別不動産の鑑定評価額には市場と比較して3四半期の遅れがあり,同じ不動産を継続的に評価している不動産鑑定士は,以前の評価価格をアンカリングすることにより古い情報を使用する傾向があることを報告している。その他にもMcAllister et al (2003)は,鑑定士の動向とその行動が原因となった平滑化について報告している。この誤差に関する研究はUSとUKにおいて発展してきた。オーストラリアではParker (1998)が,オーストラリアの鑑定評価はUKで報告されているものよりも高い精度を保っているが,それでも機関投資家が期待している精度よりも低いことを報告している。これらの問題は,鑑定評価の信頼性を左右するものであるが,鑑定評価自体を基盤としたサービス,例えば,ポートフォリオ分析に頻繁に用いられる不動産指数や地価公示も鑑定評価を基礎としている。このように不動産鑑定評価が投資の判断に与える影響は無視できないものとなっており,その正確性について不断の研究が必要な領域となっている。


その他の研究領域

・オフィス賃料指数の構築方法と解釈方法
・オフィス賃料予測計量経済学モデリング
・不動産投資スタイルに関する研究
・不動産に関連するマクロ経済指標
・不動産リサーチにおける統計手法
・不動産規模調査